ブログみよみよ日記

2017年 8月 都市交通特別委員会

引用元:金沢市議会議事録

平成29年  8月 都市交通特別委員会

          都市交通特別委員会記録
1 開会日時     平成29年8月28日(月曜日)
2 開議時間     開会 午後1時~閉会 午後2時40分
3 場所       第3委員会室
4 出席委員(10名) 野本正人委員長、上田雅大副委員長
           熊野盛夫、広田美代、喜多浩一、小林 誠、森 一敏、
           宮崎雅人、松井純一、高村佳伸の各委員
5 欠席委員(0名)
6.参考人      大阪産業大学工学部都市創造工学科 波床正敏氏
7.事務局出席者   八木主査、松田主任
8.審査事件等    別紙のとおり
9.議事の経過等   以下のとおり
 委員長の開議挨拶に引き続き、市民からの委員会傍聴許可申請について協議し、これを許可した。次に、都市交通に関する調査として参考人として招致した大阪産業大学工学部都市創造工学科の波床正敏氏から金沢市の将来の都市交通に関する意見を聞いた後、質問応答を行った。その後、委員会視察について及び委員会の開催日時について協議し、閉会した。
(1)都市内交通に関する調査
・金沢市の将来の都市交通に関する意見
         ・・・・・大阪産業大学工学部都市創造工学科 波床正敏氏
 私は、大阪産業大学工学部都市創造工学科で仕事をしているが、都市創造工学科は以前、土木工学科と言っていて、交通計画関係や都市計画関係の授業、土木計画学という社会基盤インフラの計画などの授業をしているところである。
 本日は、金沢市の将来の都市交通に関する意見として話をする。事前に第2次金沢交通戦略と提言に関する資料をもらっていて、これについて意見をほしいとのことだったので、読んでいって気になるところに附箋をつけていったらたくさんついてしまった。たくさん意見があるが、もしかしたら聞きたいことが説明できないかもしれないので、そのときは後ほどの質問で知っている限り答えたい。
 気になった項目をまとめると9項目となったが、新しい金沢交通戦略では、新交通システム導入が目玉になっていると感じた。きょうはバスでここまで来たが、金沢駅から乗るときに、どれに乗ってよいのか一瞬わからず、駅前にいる係員に6番に乗るよう言われたが、92番のバスが来て乗ってよいのかどうかわからなかった。
 このように現在、市の端から中心部へといろんな系統がたくさん走っているバス交通と比べると、この新しい交通システムはその導入に合わせて、「幹線+支線」という形態に整理しようとしているが、幾つか気になる点があった。こういうシステムは大都市で地下鉄を導入するときによく使われるシステムであり、幹線系と支線系の乗り継ぎを前提としている。特に幹線系については運行頻度を高く保ちながら、なるべく速く走ることが要求される。また、きょう乗った6番のバスは積み残しが出ていたが、大量輸送も要求されるし、乗り継ぎ前提なので、幹線系、支線系ともに高い定時性が要求される。次に、乗り継ぎの抵抗について、いろんな研究があるが、参考になるものとして大阪府が試算した例として、乗り継ぎ時に6分かかると心理的な抵抗としては20分ぐらいに相当するとの分析があった。示されたシステムを見ると、1回で市内のどこにでも行けるわけでなく、どうも2回ぐらい乗り継ぎさせる場所もあるようで、少し気になったし、後ほどにも説明するが、ロス時間となる待ち時間等を減らすためには運行ダイヤの工夫が要ると思った。また、乗り継ぎで特に上下移動が伴うと高齢者には非常に嫌われるので、バリアフリーについては高度な配慮が必要だし、現在のことは余り詳しく知らないが、乗り継ぎするたびに運賃を払うと非常に高額になるので、高度な乗り継ぎ運賃制度が必要だと感じた。このままいくと、「幹線+支線」のシステムを入れるときに、乗り継ぎの抵抗が大きくなるから利便性の向上よりも抵抗が増加し不便になるので、システムを入れないほうがましではないかとのどこのまちでもよくありがちな議論に陥りがちなので、このまま進めて大丈夫なのかとの感想を持った。
 運行ダイヤの工夫という点について、資料はスイス北西部の幹線鉄道網になるが、主要都市のチューリッヒ市、ローザンヌ市、ベルン市の都市間鉄道の動きを矢印で示している。時計が回っているが、よく見ると時計の針が上と下に来たときに、これらの乗り継ぎ駅に電車が集まってくるようにダイヤが組まれている。このように、乗り継ぎを前提としてダイヤを組み、利便性を上げて全体のシステムを仕上げる方法があるので、乗り継ぎを前提としたシステムを考えるときは十分配慮するべきだと思う。
 乗り継ぎでの運賃の支払い方法だが、新しい交通戦略ではICカードを考えているようである。金沢市内のバスは独自のカードを使っているようで、きょうバスに乗った際に手持ちのICカードは使えなかった。仮に、ICカードが使えたとしても支払いの手間は減るが、ICカード自体に乗り継ぎの割引制度が織り込まれていないと、単純に運賃がかかっていくだけになってしまうことが多く、大阪では、乗り継ぐと単純に運賃がかかっていくだけになってしまっている。ポイントシステムで還元することも試みているが、2回乗り継ぐと運賃は2倍になっても、ポイントシステムで半分も返してくれないため、ポイントシステムで還元することを主軸に置いても、実際には運賃が非常に上がっていくだけの可能性がある。また、磁気カードが間もなく廃止となるため、ICカードはこの先、非常に重要度を増していくことが想定されている。これは磁気カードをつくっているメーカーが磁気カードの生産をやめてしまうためであり、現在使われている磁気カードがなくなれば必然的にICカードに統一されていく。回数券などもICカードに統一していくことになるが、せいぜい数%の割引なので、ICカードさえ導入できれば運賃システムの全てが解決すると思っていると、そういうことにはならないので要注意である。最も強力な考え方は、どこの会社のバスや電車に乗っても同じ料金体系で、乗り継いでも追加の料金が要らないというヨーロッパの都市交通で実施している共通運賃制である。これは信用乗車--運転席の横で料金を払わずに自由に乗りおりしてよいが、チケットを持っていない人が乗って見つかったときには高額の罰金が課される制度との組み合わせで行われている。日本の制度ではなかなか難しいと言われているが、たしか富山ライトレールの一部で導入していると聞いたことがある。いずれにしても、こうした方式が最も利用者にとって利便性が高いものになるものの、自由乗降のため利便性は大幅に上がるが、事業者サイドからすると取りっぱぐれを防ぐことが難しいので、非常に警戒するシステムである。複数の事業者で共通カードや共通運賃システムを導入した例として、京都フリーパスという京都市内の鉄道やバス等の全ての事業者で使えるカードが一時期発行されたが、1日券が2,000円という非常に高額な額になってしまい、余り普及しなかった。原因は、隣の路線に客を取られるぐらいなら1円でも取りっぱぐれないように運賃設定してもらわなければ困ると事業者みんなが思ったがために、非常に高額な料金でないと合意に達しなかったためである。また、この制度による運賃を分配するときにももめていて、このフリーパスの会議に出ている間、毎度もめていた。
 次に、幹線系の定時性を確保するべきだと書かれていたと思うが、公共交通の優先信号システムやバス専用レーンを入れることを考えていると思う。日本のPTPS--公共交通優先信号システムは、10%から20%程度の所要時間短縮につながるとの実績があるが、これは非常にマイルドというか、少し弱々しいと思う。少しわかりにくいと思うので、ビデオを見てもらいながら説明したい。
   〔ビデオ上映〕
 これはフランスのストラスブール市だが、路面電車が停留所に着き、乗客の乗降が始まったところである。信号機が2つあるが、左側で赤になっているのは自動車用、右側は路面電車用で、路面電車も赤信号になっている。自動車側の信号が青になって、先に車が出発する。路面電車は、まだ乗りおりしているが、運転席のボタンを押すと優先信号システムが働き始める。優先信号システムが反応して青になり、さきに出た車を追っかける形になる。次の交差点もさらにその先の信号機も優先信号システムが反応しており、先に出発した車はまだ交差点でひっかかっている間に、路面電車は全くとまることなく左に曲がっていった。右側通行なので、日本の右折に相当する最も曲がりにくい場所を無停止で曲がっていったことになる。私もヨーロッパに行ってよく路面電車に乗るわけだが、よほど大きな幹線道路を横切るときでない限りは信号機でとまった記憶がない。もっと言うと、大きな幹線道路でも大体オーバーパスかアンダーパスで抜けるので、信号でとまった記憶はほとんどない。それぐらいのシステムを入れないと定時性は本当に確保できないと思っておいたほうがよいと思う。
 また、加速度を上げて、あるいは減速度を上げて定時性を確保するとの記述もあった。日本の車両は、性能が悪いからおくれていくと思われているようだが、そうではなく、日本の場合は立ち客が倒れないように加減速を抑制している傾向にあるためである。ヨーロッパから路面電車を買ってきて日本で走らせている場合でも性能を落として使っているので、金沢市で導入するものがバス系になるか路面電車系になるかわからないが、車両だけよいものを買って使っても、立ち客への配慮があるので、定時性がよくなるかどうかはわからない。
 次に、鉄軌道系とバス系の違いについてである。交通戦略や提言では、新しい交通システムとだけ書いてあって、鉄軌道を入れるのかバス系のBRTと称するものを入れるのかはっきり書かれていない。ほかのまちの会議に首を突っ込んでいるので、書けないから書いていないとの事情があるのはよくわかっているが、その違いについて果たしてわかっているのか少し心配である。実は似たようなものだと思われているというか、国土交通省はそのように思い込ませようとしている節があるが、実は両者は大分違うと思っている。LRT--新型の路面電車システムと、国交省が言っているBRT--連接バスシステムは、量を運ぶという点ではどちらもあまり変わらない。しかし、LRTはゴムタイヤ式であろうと何であろうと、ほぼ常時専用通路を確保していることに対し、BRTと称するものは確保しているかどうかまで保障していない。また、LRTについては歩行者系の街路と組み合わせることが都市計画として考えられているが、国交省のBRTはそこまで踏み込んでおらず、ひたすら人を運ぶことしか言っていないように思うし、国交省のBRTはバリアフリーと言っているが、私から言わせれば中途半端だと思っている。運賃システム関係でいうと、信用乗車と共通運賃を組み合わせて自由に乗りおりできるようにLRTは仕組まれているケースが多いが、国交省のBRTは単にバスなので、そのまま移行すると長い連接バスの中を後ろから乗って前まで大移動することになる。さらに、客がふえて乗降客数がふえるが、出口が1カ所なので、乗降時間は今より長くなる。ICカードは運賃収受を簡便化することには貢献するが、安くなるかどうかは運賃システム次第である。PTPSについては先ほど言ったとおり日本のものはマイルドだし、BRTの場合、公共交通を優先するかどうかはっきりしていないが、恐らく現行のとおり、自家用車のままのシステムになると思う。
 資料の写真を見てほしい。上は日本のBRTと称するもの、例えば岐阜の清流ライナーは、岐阜駅から岐阜大学までを結んでいる連接バスだが、一応BRTとして紹介されている。資料下のフランスのナント市で走っているBRTも連接バスであり、バスそのものはほとんど変わらないと思うが、見てわかるように、上は普通のバスが長くなっただけである。下は線路を敷いていればLRT、路面電車だと言えばそうかと思うようなところを走っている。バスの後ろの交差点に信号機があるが、これは信号機ではなくバスが通るときに赤のランプが左右にチカチカするという踏切である。このように、結果として日本のBRTと称するものは特定の目的地に大量輸送するときしか使い物になっていない。大学など目的地が決まっていて、そこで客をおろしさえすればよいとの場合には使えるが、ちょくちょく乗りおりさせるときにはかえって不便になる代物である。フランスの基準からいうと、専用通路も確保していないので、国交省のBRTはBRTではない。
 車両についてだが、実は輸送の能力的にはあまり変わらないし、車両の長さも幅も重さもほとんど同じである。もちろん車種にもよるが、資料の2つの車両はほとんど同じである。なぜかというと、これはドイツ製だが、ドイツでは連接バスが走るところは線路を敷けばLRTが走ることができるよう、最初から荷重設計が共通化できるように重さなどの諸元をそろえてあるとのことである。なお、カタログ上の定員はBRTのほうが多いように書かれているが、実は1人当たりの面積が違うだけであって、結果としては同じだと思ってもらって差し支えない。
 特に金沢は市街地の端に行くと丘陵地を抱えているので、能力的なことを気にする人がいるかもしれないが、LRTは8%の勾配まで上れる。これは通常の道路の設計をしていればカバーできる範囲である。BRTはゴムタイヤトラムという形式のもので13%まで上れるが、これも通常の道路として設計していればカバーできる範囲である。また、雪が降ったときのことだが、LRTは鉄の車輪とレールという小さい面積で雪を押し潰すため、雪が解けるので雪で滑ることはない。しかし、ゴムタイヤ式であれば、バスと同じなので滑るときには滑り、実際、雨で滑っているのを見たことがある。
 車内について、日本で語られることはほとんどないが、左下は電車式のLRTの車内である。車輪は椅子の下に収納しているので、車輪の場所は車内ではよくわからない。右上のTVRは変形のBRTで、タイヤハウジングが車内に大きく出ていることが特徴で、日本の連接バスと同じ傾向にある。金沢のノンステップバスがほぼ同じなので、あれを伸ばしたものと思ってもらえばよい。右下はクレルモン=フェラン市を走っているトランスロールという路面電車に近いBRTだが、これは特殊な設計によって車両と車両の連結部分の下にタイヤを埋め込んでいるので、タイヤの位置がわかりにくくなっている。
 走るところについて、日本の場合は路面電車のレールの上をバスが走ることはないが、ヨーロッパではバスが路面電車の線路上を走ることはよくある。なぜかというと、線路が違うからで、資料の右下は富山の路面電車の軌道敷をたまたまめくったところを写真に撮ったものである。通常の線路の上にアスファルトをかけていると思ってもらって差し支えないが、砂利なので、上に重たいバスが何度も通ると変形していく。しかし、ヨーロッパのようにLRTの線路上にバスを走らせることを前提に設計しているような街路だと、最初からコンクリートの板の上にレールを固定してあるので、バスが通っても変形しないようになっている。このように軌道の構造がそもそも違っている。
 金沢の場合、景観を気にするケースが多いと思うが、導入する交通機関によって道路の表情が変わってくる。資料の右上は名古屋市の中央を走行しているバスだが、バスそのものである。左上は金沢市の姉妹都市であるナンシー市だが、路面電車に近いBRTを入れており、ゴムタイヤで走るのでどうしてもコンクリート系やアスファルト系の路面にならざるを得ない。下2つは鉄道系のもので、両方ともストラスブール市だが、住宅地だと芝生を生やすこともできるし、石畳風に仕上げるなどの工夫ができる。
 若干余談になるが、少し努力は要るけれどもLRT系だと郊外鉄道との乗り入れができないことはないし、資料の左下のように、専用軌道を道路の真ん中に確保して、車を気にせず割と速い速度で走らせることもできる。資料の右上、先ほど説明したナント市では、BRT専用の通路を確保して車を気にせず走っていて、住宅地だと芝生を張っているところもある。
 ここからは、交通戦略の話とは違うが、LRTの工事が気になっているとの話を聞いたので、知っている範囲で富山市のライトレールの工事のときの説明をしたい。富山ライトレールは2006年春に開業したが、実は4年前の2002年の秋でもまだ話がもやもやしている段階だった。富山市役所からある先生を経由して質問が来て、富山港線を路面電車化したいが、路面電車にすると線路全部を舗装しないといけないのかとの話からスタートしていた。とんでもない誤解だと思って聞いていると、軌道法を適用すると、全区間を時速30キロメートルから40キロメートルで走らないといけないと聞いたが、それでは岩瀬浜まで1時間ぐらいかかってしまうのでどうにかならないのか等、そういうレベルからスタートしていた。しかし、そんなに難しい交通機関ではないので、基本的な事項を説明して、監督官庁と相談したら、3年で着工し、1年ぐらいで開通してしまった。最初にやったことは、地下埋設物の移設だが、地下埋設物にはいろいろなものがある。通常、路面電車が走るという荷重の設計をしていないケースが考えられるので、そういうものは路面電車の線路の下にならないように移設している。荷重の問題以外にもメンテナンスのときに通常の道路だと表面から掘り返すが、掘り返せないので、そういう点からも移設したと思う。
 次に橋も荷重の設計が対応していないと落ちてしまう。これは途中にある八田橋という橋で、表面的には何をやっていたのか多分わからないと思うが、コンクリート製である通常の道路の床版を路面電車化に当たって真ん中の線路が通る部分だけ鋼製の橋桁にかけかえるという面倒なことをやって荷重設計に対応している。また、路面電車が通る部分の道路の拡幅だが、必要に応じて拡幅したようである。
 次は、アメリカ西海岸のポートランド市の工事の手順で、たまたま写したものだが、非常にわかりやすいのでこれを使って説明する。端から順番に手順を踏んで工事しているので、順番に写真を撮っていくと工事の手順がわかるようになっている。資料左上から、普通の街路をしばらく歩いていくと、車があると工事ができないので駐車するなとの張り紙がしてある。道路の工事に入るが、整地していき、整地したところに鉄筋を組んで、同時にレールも寸法を合わせて置いていく。
 レールの横にあるのは騒音や振動を防ぐためのゴムで、これも一緒に挟まれていて、鉄筋は組んであるから、そのままコンクリートを打設していき、基本的にこれで完成との手順である。このように、大した工事ではない。路盤さえしっかりしていれば、少し言い方は悪いが、歩道の工事に毛が生えたレベルとのイメージである。
 次に、都市の品格を向上させる視点だが、これを書くと怒られそうな気はしているけれども、正直な感想である。私のイメージで金沢は、きれいなまちとのイメージがあるが、実際に街角に立つと、資料の写真のとおり、果たして日本有数の観光地なのかと思うほど雑然とした状態になっている。
 次に、4枚の観光地の写真を出したが、全て共通しているのは、車さえなければよい雰囲気と感じる写真である。左上は京都の南禅寺の境内で、写っているのは舞子ではなくて、観光用の舞子ちゃんだと思うが、それはともかく、車さえなければよい雰囲気だが、車を境内に入れているので台なしになっている。左下は、三年坂という通常、歩行者しか入ってこないところだが、タクシーが入り込んでいて、せっかくの雰囲気が台なしである。右上は温泉の観光地で有名な湯布院で、歩けば楽しい道路があるが、ここは全く交通規制をしていないので車が入り放題でもう台なしである。右下は大阪に近い有馬温泉だが、もうめちゃめちゃな状態である。車さえなければ割とよい雰囲気だが、こうなると身の危険さえ感じるレベルである。もちろん気をつけていると思うが、観光地では雰囲気の問題に気をつけたほうがよい。日本でできるかどうかとの議論はあるが、ヨーロッパの中心市街地に行くと、自家用車をとめて公共交通と歩行者だけの進入を許した街路があって、同時に都市景観に気が使われているケースがよくある。それから比べて、自家用車がたくさん走っている街路は、観光客の視点からすると楽屋裏を見せられているような気がして、げんなりするのが正直なところである。
 これは雰囲気や見かけの問題だけではなく、実際に騒々しさを生んでいて、少しわかりにくいが、実際に測定してきた結果を示している。ここに並べている都市のうち、青色はBRTかバスがメインストリートに走っている都市で、トランジットモールという自家用車の乗り入れを禁止しているまちである。赤色はLRT、路面電車系でトランジットモールになっているまち、緑色が日本で路面電車が走っているまちで、なるべく自家用車がたくさん走ってないところを選んでいる。何もついてないまちは、日本の街路である。少しわかりにくいが、棒の一番上が騒音計ではかった最高レベルの音圧--100デシベルに近いので、大都市の地下鉄レベルであり、うるさい音圧である。下は静かになった一瞬をはかったレベルで、50デシベルを下回ると鳥のさえずり声が聞こえるほどのレベルである。平均順に並べていて、左に行くほど静か、右に行くほどうるさいまちになるが、京都のメインストリートである四条通りは、物すごくうるさい。なぜかというと、バスがたくさん走ってくるし、自家用車も完全にはとめていない上に、わけのわからないBGMを流しているためである。どれぐらいうるさいかというと、私の勤めている大阪産業大学の前の国道170号は、産業道路でトラックがたくさん走っている4車線の道路だが、そことあまり変わらない音圧レベルであり、日本の街路はうるさい場所が多い。LRTが走っていてトランジットモールになっているまちは静かで、BRTでトランジットモールになっているまちも日本の街路よりは静かである。つまり、トラックや自家用車が入ってくるようなところはうるさいという話である。
 トランジットモールについて、20倍速のビデオを見てみたい。
   〔ビデオ上映〕
 これは、フランスのトゥール市という金沢市より人口がやや少ない30万人の都市である。ここは、メインストリートで、片方向で10分に1回、路面電車が走ってくる。トランジットモールというと、大体警察が危ないと言うが、それほど危ないものではない。そもそも電車はめったに走ってこないし、わざわざ線路の上を歩く物好きはほとんどおらず、線路を横切るだけなので、警察が言うほど危なくない。ヨーロッパでは、メインストリートがトランジットモールと称するものになっているまちは割と多いが、自動車を完全にシャットアウトしているわけでなく、ほとんどのところで時間帯別の規制になっているので、平日の午前中は車が入ってきている。規制している時間帯でも、知っている人は抜け道を用意しているし、宿泊者、配送車、タクシー、住民の車は入れるように許可している。日本では、広い面積を規制すると困るとの議論が多いが、実は大した面積での規制はしていないし、規制しているところにはあまり近寄らないようにしているため、結果として周辺も含めて自動車交通量が少なくなっているのが実態である。
 日本におけるトランジットモールの教科書的な定義は、自家用車の通行を制限して、歩行者と公共交通だけが通行できる街路としている。金沢市では何か少し微妙だが、その定義に当てはまる街路があることも知っている。いずれにしても、本当の定義は、公共交通によって移動の利便性を確保した上で、街路を歩くに当たって自動車交通を極度に少なくして安心して歩けるようにしてある街路であり、完全にシャットアウトしているわけではなく、必要なら入ることができるようになっているケースが多い。資料左下の那覇市は、歩行者天国になっているが、めったにバスが来ないので利便性が確保できていない。資料右側は姫路市の駅前で、姫路市はトランジットモールだと言っていて、確かにバスはたくさん走ってきて便利だが、歩行者は横断歩道しか渡らせてもらえないので、これでは単なるバス専用道路である。このように日本では解釈してしまっているが、自由に歩けて、しかも便利というのが本当の意味である。
 また、戦略を見て、高齢化が進んでいるにもかかわらず、バリアフリーをしっかり考えていないと感じた。公共交通機関のバリアフリーというと、バスのワンステップバス、ノンステップバスを導入する話が出てくる。資料左上の写真はワンステップバスという車内に1段だけステップがあるタイプのバスだが、実は3ステップある。どういうことかというと、歩道からおりてバスに進むために1ステップ、バスの床に乗るために1ステップ、バスの中に1段あるから1ステップとなり、全部で3ステップある。資料右下は、ノンステップバスで、歩道にぴったりくっついていればノンステップだが、実際には非常に広い溝が出来るので車椅子は板を渡してもらわないと入れない。これが日本のバスにおけるバリアフリーのレベルである。
 見慣れているため、当たり前ではないかと思うかもしれないが、次のビデオを見てほしい。
   〔ビデオ上映〕
 路面電車がとまったが、これはナント市の路面電車で、車両単体では電停との間にすき間があくので、電車車体の下から自動で板が出る。最近の電車は最初から板なしでも大丈夫なように、エレベーターの入り口のように合わせて設計している電車もある。ナント市にはBRTという連接バスもあるが、これも板が出る。日本のBRTは、板は多分出ないと思うが、ヨーロッパではちゃんとバリアフリーに対応していて、車椅子でも一人で移動できるようになっている。これは、ルーアンというまちのBRTだが、特殊な装置が積んであって、電停にぴったり寄り添えるように自動でハンドルが制御されている。日本のバスでは運転手の技量によるので、30センチメートルから40センチメートルくらいあいているのが当たり前である。
 もう少し積極的な例としては、そもそも乗りかえさせるからいけないとの議論もある。これはドイツのカールスルーエ市だが、乗りかえそのものを極力なくすこととし、中心市街から走っていった電車は郊外では住宅地のど真ん中に設けた電停にとまる。映像は、集合住宅地で、停留所のほかにパーク・アンド・ライド用の駐車場があって、そもそも乗りかえさせないとの方針である。
 金沢の郊外鉄道は、北陸本線と北陸鉄道になるが、両方とも幸い、線路の軌間自体は1,067ミリメートルでそろっているが、少し気になるのは電源である。先ほどのカールスルーエ市は北陸本線のような高圧の交流電架と低圧の市内軌道の両方で走れる車体をわざわざ開発している。これはドイツのカッセル市の路面電車だが、発電機を積んでいるので煙を吐く。日本でも蓄電池の技術が進んできているので、この先、技術が進めば電源は何とかなる可能性がある。
 乗りかえさせないという点では、ポートランド市の路面電車は大学に乗り入れているし、ボルドー市も大学に乗り入れている。乗りかえさせるときも対面で乗りかえできるようにしていて、とにかくバリアフリーには気を使っているし、そもそも乗りかえさせない工夫もやっている。
 これらを踏まえて交通戦略と提言に戻る。現時点ではイラストレベルであり、これを詳細に分析することは少しナンセンスだと思うが、一応観光客の動線や病院の位置なども考慮している感じはするが、住民の居住地という点では、新しい交通は外れている感じがする。それから、フィーダー系は乗りかえさせることが前提のシステムになっているが、都心から乗りかえ拠点の距離が近いので、せっかく高速運転や高頻度運転をしても、乗る距離が短いので余り効果がない可能性があると思う。本当にこのとおりに配置してしまうと2回乗りかえしないと都心に行けないところが出てくるため、乗りかえ抵抗がふえる割に便利にならないという議論が展開され、つくるのをやめようとの議論に発展する結果が見えている。また、住宅の話でいうと、取り込むならば低層の戸建てではなく中高層のマンション系を取り込んだほうが客の数としては多いし、導入するラインにはたしか大学はなかったと思うが、大学生の輸送は重要である。なぜかというと、住宅地からの通勤通学客の流れと学生輸送は流れが逆になるので、輸送の効率を上げる点では重要になる。こういう案を市民に示すと、それぞれの市民は、各自にメリットがあるかどうかとの目で見るので、特に居住地が含まれてないと、観光客向けであり、それを私たちの税金で払うのかと言われる可能性があると思った。
 それから、環境負荷提言やコンパクトシティという話は一応載っていたが、環境対応についてほとんど書かれていないことも気になった。日本国自体が忘れているのではないかと思ったりもするが、パリ協定はかなり厳しい制限である。20年間ぐらいで7%減らすとした京都議定書では、チーム・マイナス6%としてキャンペーンをやっていたが、結局、達成できなかった。達成できなかったが、できないとは言えないので、森林でCO2を吸収するから、それは削減したも同然だというロジックを組んでようやく8%減にした。しかし、よく考えてみると、CO2を森林に吸収してもらっても森林の枝はそのうち落ちて、虫が分解して、CO2が出ているし、それらを切って木製品にして使っているから、CO2は出ている。ここまでして8%減を確保したが、今後、17年間で26%の削減ができるのか、という話である。これは、交通分野においては、自動車を電気自動車とハイブリッド自動車にほぼ全て置きかえればいけるだろうと踏んでいるのかもしれないが、電気自動車は原子力発電の深夜電力を当て込んだシステムであり、少し危ない考え方である。それから、公共交通へのシフトについては、金沢の目標はかなりマイルドな設定であり、このままだと少し無理がある。
 それから、これははっきり書かれていなかったが、ありがちな議論なので少しくぎを刺しておこうと思って説明する。どこのまちでも、余裕が出てきたら路面電車やBRTの専用通路を整備しようとの議論をしていて、余裕を出すためには道路拡幅が必要だとの話がよく出ているが、道路拡幅や道路整備から入っていって本当に大丈夫かという話をしたい。現在、自動車交通と公共交通が定常状態にあり、公共交通を使っているが自動車に乗りかえようという人と、自動車から公共交通に乗りかえようという人もいない状態で落ちついているとする。この状態で道路を整備すると、渋滞等が減ったり、スピードアップするので、自動車が速いから自動車にしようと思う人が多かれ少なかれ出てきて、自動車の利用者がふえて公共交通の利用者が減る。自動車は使う人がいればいるほど不便になる交通機関で、公共交通は使う人が少なければ少ないほど不便になる交通機関だが、その第一歩を踏み出してしまうことになり、自動車も公共交通もどんどん不便になるスパイラルがはじまって、どこかの段階で両者の関係は落ちつくが、落ちついた状態は、最初に比べると必ず低い状態となってしまう。このように、道路整備から入ると両者が不幸になるところで落ちつく可能性が非常に高い。
 では、逆に公共交通から入っていくとどうなるか。路面電車かバスかわからないが、とにかく圧倒的に便利な公共交通を導入すると、公共交通が便利になるので、自動車から公共交通へ多少なりとも乗りかえする。そうすると、自動車は使う人が少なければ少ないほど便利だから、どうしても使わなければならない人は便利になる。また、東京の満員電車みたいなのは論外だが、公共交通は使う人が多ければ本数はふえるし、運賃を上げようとの議論にもなりにくいため便利さが保たれる。公共交通の整備から入るとこういうことが繰り返され、両方とも今の水準よりも高いところで落ちつく可能性が非常に高い。このように、どちらからスタートするかで結末が変わる可能性があるので、道路整備をして様子を見てからやるのは少し危ないと思っている。
 北陸地域で、富山や福井の話をすると微妙な雰囲気が流れるのは知っているが、この際あえて言っておきたい。福井の話だが失敗した事例で、今はえちぜん鉄道といっている元京福電鉄だが、事故を起こして完全にとまってしまった。当初は単線の線路なので自動車交通で賄えると思っていたが、大混乱に陥って、結局、事実上の県営鉄道として復活させざるを得なくなった。大した量ではないと思っていたが、大した量だったとの大失敗の例である。和歌山もたま駅長などで有名になった和歌山電鐵がもう少しで廃止されそうになったが、廃止する前に県が支えて残った。多分あれも廃止したら大混乱になると計算予測していた先生がいたと思う。
 次に、コミュニティバスや福祉交通に近い話も含めた自動運転絡みの話をしておきたい。去年くらいから自動運転がにわかに盛り上がってきていて、皆さんすごく期待しているが、私は少し冷ややかに見ている。免許を持っているが運転しても大丈夫なのかという高齢者が運転するよりは、安全性は向上する可能性があるし、トラックやバスの運転手の不足が最近ひどいが、そうした営業用の車両の運転手不足は解消する可能性があって、こうした面では恩恵を受けると思う。ちなみに、大阪産業大学のシャトルバスは、近鉄バスに委託して走らせているが、運転手不足で請負費用を倍にしてもらわないと運転手が集まらないと言われたと聞いている。また、路線バスは実は自動化しやすい可能性が高い。どこを走るかわからない一般の自動車に比べて、どこを走るかわかっている路線バスは道路の特徴をあらかじめインプットしやすいので、一般の自動車よりも先に自動化する可能性が高い。ちなみに、同じ大学の自動車工学を研究している先生の話では、学生をバスに乗せて、バスのデータをとって研究していると言っており、可能性はありそうである。ただ、自動車というと渋滞絡みの話がよく出てくるが、渋滞の解消は望めないと思っていたほうがよいと思う。それは、自動運転したからといって1台の車が0.5台になるわけではなく、1台は1台のままであり、道路が処理できる容量自体はふえないため、処理できる台数は余り変わらないからである。前の車との車間が極端に詰められるだけの高度な運転を自動運転ができれば少し状況が変わるかもしれないが、そんなアクロバティックな運転ができるところまでいけるかどうかまだわからない。むしろ心配なのは、もし自家用自動運転車が普及してしまうと、一家に1台、運転手つきの車を備えた状態になってしまう。そうなると、駅まで送って、バス停まで送ってと使い、帰りは自動運転でからの車が家に戻ってくることが頻発してしまう可能性があって、タクシーが空車で車庫に戻るのと同じ状態だから、自動車の交通量としてはふえてしまう。駅に行け、バス停に行けくらいならよいが、都心まで送れといって自動運転で行って、駐車場にとめるのはもったいないから、子どもが帰ってきたら迎えに行ってというように家に自動運転車を返してしまうと、誰かが家族を送迎していることと同じになって、多分市内交通の自動車がふえると思う。こうして使い勝手がよくなると使う頻度が上がるので、結局、環境負荷もふえてしまう可能性もある。また、過疎地のバスには多分悩まれていると思うので、そこに使おうと考えても、劇的にコストが下がれば使いやすくなるかもしれないが、人件費が省略されるだけで、そこまで安くならないかもしれない。現状の運送会社はそんなに利益率がよくないので、利益率を確保すると今の有人のタクシーと値段的には変わらない可能性があると思う。また、共同配送会社や自動運転車をシェアするカーシェアリングのような事業も、現在のタクシーやレンタカー事業と余り変わらないかもしれないので、これも余りコストが下がらないかもしれない。それから、都市経営にとって重要な点として、自動車用のインフラは自動運転だろうが有人運転だろうが変わらず、都市インフラのコストとなる道路の整備コストや維持コストは変わらないかもしれないので、余り過度な期待はしないほうがよいと思う。
 では、ゆっくり変化を待てば良好な結果が得られるのか。ゆっくり変化を待つというのは、国交省の言うとおり標準的な対応をしましょうとの意見だが、実は金沢はここ30年近く、国交省の言うとおりにやってきたと見ている。30年ぐらい前に都市新バスシステムを入れて、その後、バス専用レーン、バスロケーションシステム、屋根つきバス停を入れているが、これは全国的にかなり早期に導入した部類である。これらは、都市新バスシステムとの国交省のメニューに乗っかっているが、金沢市内のバスは自動車交通、自家用車交通を置きかえるレベルに達したのかというと、達していないと感じていて、国交省の標準メニューではそこまでいかない可能性がある。ここで、国交省の言うBRT--連接バスシステムを入れて何とかなるのかというと、実はメニューをよく見ると、今までの都市新バスシステムと変わらないバス専用レーンに連接バスを入れて、屋根つきのバス停をつけて、バスロケーションシステムを入れて、優先信号システムというマイルドなシステムを入れて、果たして自家用車に対抗し得るシステムになるのかどうかというと、あまりよくならないのではないか。今よりは便利になると思うけど、圧倒的に便利かと言われると、多少便利になるぐらいじゃないかと思うので、余りゆっくり待っていてもよい結果が得られるかといえば微妙だと思う。それから、ゆっくり待っているうちに市民が自発的に公共交通は大事だと言い始めるかというと、それもないと思う。海を見たことのない人が、突然、海は広いぞ、行こうよと言うかというとそんなことを言うわけはなく、見たことのある人が海は広いぞ、すばらしいぞと言わない限りは知るすべがない。特にヨーロッパの公共交通のシステムがどうなっているかなんて、ほとんど誰も知らないのである。近隣のまちのことを言うと微妙なのは承知で言うが、ライトレールを入れて中心市街地を再開発した富山市の市長も、事あるごとにいろいろな説明をしていて、私も2回ぐらいは聞いたし、路面電車を入れて世界的に有名なストラスブール市では、市民への説明が2,000回に達したそうである。私がよく出入りしている堺市がストラスブール市に視察に行ったときに、堺市も路面電車を入れることを考えていて、市民の説明会を開いたとストラスブール市の市役所で意気揚々と言ったら、「いや、うちは2,000回の説明会をやりました。」と言われて黙って帰ってきたとの話がある。
 その他として、北陸本線は、もう少ししたらJRから取り戻せるので、もう少し活用してもよいかもしれない。新交通を導入するときには、費用の変化と所要時間の変化と乗りかえ抵抗の変化の話によく陥りがちで、特にコストでは軌道系が圧倒的に不利なので、放っておくとバス系で落ちついてしまうが、バリアフリーのレベルが全然違うので注意してほしい。最近、国交省の都市関係の職員と、まちへ出る頻度が上がれば、市民の健康の度合いが違ってきて、医療費が下がるのではないかとの話をしたが、そういうことを織り込んで考えていくのも一つの方法かもしれない。
 最後に、軌道系交通やBRTの専用レーンについて、専用通路を確保しようとすると、うちは道路が狭いから無理だとの話がよく出る。こうした話は古いまちで特に出やすいようだが、資料の電車は、どこを走っているか。よくこんなところに電車の線路を通したなというところを走っている。こういう通し方もあるので、いろいろと工夫の余地はあるかもしれない。ちなみに写真のまちは、金沢市の姉妹都市である。

△[質問応答] 

◆喜多浩一委員 目からうろこが落ちる話をたくさん聞いた。多種多様な説明があったが、中でも意外に認識不足、勉強不足だったのが、LRTとBRTの違いとそれぞれのメリット、デメリットについてだった。
 ①コストの面で話をしたら必ずBRTに落ちつくとの話もあったが、波床氏の印象として、金沢市のような規模の都市でLRTを入れることをどう考えるか。波床氏はLRTがよいと言ったが、実際はどうなのか。
 ②工事について、歩道整備に毛が生えた程度だと言っていた。実際は道路の工事だけではなく、例えば迂回路を設定したり、既存のバスや交通に少しどいてもらったり、時間帯を変えるなどいろいろな障害が出てくると思う。まだほかに考えられるような工事があるのか、また、あるのならそれをどう緩和していけばよいのか、何か知っていたら教えてほしい。

◎波床正敏参考人 ①金沢のまちはどういうシステムがよいかとの話だが、もしこれが日本のまちではなくヨーロッパのまちなら、確実に軌道系の交通が入っているまちだし、ひょっとすると地下鉄が走っていてもおかしくないレベルである。ただ、大阪や東京の地下鉄ではなく、路面電車が地下を走っているようなタイプの地下鉄が走っている規模の都市で、たしか金沢も30年ぐらい前にミニ地下鉄の話があったと思う。それぐらいの都市なので、バス交通だけでさばき切れる量ではないはずの人が本来は都心に集まっているはずで、もし集まっていないのならば、それは本来都心に来るべき人に逃げられて、どこかに行ってしまっている可能性がある。金沢市民に直接聞いたことはないが、観光客が多くてバスに乗るのはうっとうしいと言われていないか。ちなみに京都では、最近観光客がふえてバスはうっとうしいと言っていると聞いたことがある。
 ②工事自体、富山市は1年ぐらいでさっとやったが、かかる場合は二、三年かかるようである。確かに沿道の商店などには影響が出るらしく、営業補償などの議論が出るそうである。迂回路の設定は当然しなければならないが、十分な幅員があるような道路だとバスを通しながら真ん中の部分だけで軌道の工事をやっているのも見たことがある。ただ、標準的には迂回路を設定していると思う。

◆喜多浩一委員 繰り返しになるが、工事自体は割と簡単にできるとの話だったと思う。ただし、金沢の場合は特に道路事情が余りよいとは言えず、道路網が完全に整備されている感じがしないがどう思うか。

◎波床正敏参考人 よく金沢の人は金沢の道路は悪いと言っていて、近隣県の福井市や富山市、高岡市を見ると確かに悪い。しかし、ヨーロッパのまちでこのレベルの街路網は別にそれほど不思議ではないから、金沢のように中心市街に細街路が面しているのはそんなに不思議ではないが、むしろこの先、4車線の道路を金沢の中心市街に整備できるのかというと、多分できないだろう。そうなると、今ある街路を使って最大限の人の輸送をしなければならないが、自動車に頼っている限りは、1車線当たりせいぜい1時間1,000人レベルである。バスでも1分に1本来ればよいほうだが、なかなか難しいので、1時間2,000人ぐらいがバスの上限と言われている。それ以上の人を運ぼうと思うと、さらに輸送効率のよい交通機関を入れない限りは、街路がネックになって中心市街の発展が阻害される可能性がある。もし何かほかに道路整備する見込みがあるのなら、それを整備するのも一つの方法だが、そうした見込みがないのなら、今の空間を使っていかに効率よく運ぶかを考えたほうが中心市街の発展にとっては有効だと思う。

◆森一敏委員 実際のものを見たり体験したりしない限りわからないとの考え方は、なかなか発想できなかった。今、金沢市は交通戦略の中で多様な交通実験をやっている。そのことを通じて、より説明力を高めたり、市民に一定の体験のもとで新しい発想に共感してもらえるような意識土壌をつくってもらうとの発想で交通実験をやっていこうとしているが、波床氏の認識から見ると相当思い切った交通実験をやらなければ、なかなか意識上の変化という効果に結びついていかないのではないかとの問題意識があると解釈した。
 そこで、金沢がこれから交通実験をやっていくときに、どういう点に留意すべきか聞く。

◎波床正敏参考人 金沢が今からやろうとしている交通実験の内容についてはよく知らないが、一般論として研究者の間でよく言われていることを説明したい。交通実験するときは、目指すものの内容が正確に伝わるように条件設定しないといけなくて、誤った設定をしてしまうと、この程度のものかと誤解されてしまう可能性が結構高くなる。そうなると、できるものもできなくなってしまうことがある。交通実験は、今までにもいろいろなまちでしているが、条件設定が中途半端なために住民が誤解してしまって、余りうまくいかなかったのではないかと思われるものが割と多い。
 少し具体的に言うと、LRTを導入しようとしているまちで交通社会実験と称して、普通のバスを走らせてしまったところ、LRTはこの程度だと思われてしまい、その後、話が全然進んでいないまちを知っている。普通のバスを路面電車みたいに道路の真ん中で走らせて、LRT実験という垂れ幕をつけたそうだが、普通のバスはやっぱりLRTではない。さきに説明したとおり、バリアフリーの観点ではあり得ないし、運行頻度の点でもあり得ないなど、とにかく現実離れした条件設定をしてしまうと、かえって逆効果になってしまうので、研究者の間ではやらないほうがましとも言われている。
 だから、見ていて心配になる条件設定の社会実験を見た交通関係の研究者は、学会の後ろであのまちは交通社会実験と称して意味のない実験をして、話を潰そうとしているのかとひそひそ話をしている場合がある。本気でやるのだったら、本物が実感できるような条件設定をすべきであって、中途半端で誤解を招くような設定をするぐらいならやらないほうがましで、別の周知方法のほうがよほどよいかもしれない。

◆広田美代委員 交通は、やはりまちづくりと一緒に考えていかないと意味がないと思っている。金沢も歴史的に言うと路面電車が走っていたが、それを廃止して車社会に移行したわけである。国内全部そうなったように、金沢も郊外に大型量販店を配置していて、金沢の人はまちに買い物には来ない。若い世代は、ワンボックスカーに乗って子どもと一緒にコストコへ行ったりしているのに、パーク・アンド・ライドで、一旦スーパーなどにとめて、まちなかにくることは絶対ないし、そんなに面倒くさいことをするなら、そのまま車で来てしまう。しかも金沢は天気が悪いので、バスに乗ろうと思っていても、少しでも雨が降れば車にかえることも容易におこり得る。
 ヨーロッパのように確かによい条件はあるかもしれないけど、まちづくりが全然そうなっていないと感じているが、このように、目的や条件設定が本当の理念とは合わない中で金沢はいろいろやっているので聞く。先ほどの説明では、ヨーロッパは都心部に人が集まるのは公共交通のおかげと聞こえたが、ヨーロッパのまちづくりでは、買い物の場所、学校や病院はどこが中心になっているのか。

◎波床正敏参考人 ヨーロッパには来週も行くが、公共交通に乗ると都心だけではおもしろくないので、終点まで行ってみたくなる。そうして行った終点に何があるかというと、日本にもよくあるショッピングセンターがあったりする。つまり、ヨーロッパでLRTが公共交通の目的を果たしているようなまちでも、郊外に行けばショッピングセンターはあって、恐らく日用品などは車で買いに行っている人は多いと思う。
 では、都心に何しに来ているかというと、都心の店はショッピングセンターで売っているようなものを売ろうとしているわけではなく、高級品を置いている店が多い。ヨーロッパで中心街の写真を撮ると、ショッピングセンターにあるような店のブランドは写らなくて、高級品のブランドの店が写り込んでくる。こうした差別化がされている。また、まちなかには買い物に来るだけかというとそうではなく、まちなかを歩くことを楽しんでいるところがあると思う。したがって、単に輸送手段の問題ではなくて、歩いて楽しいまちづくりは重要であり、歩いてまちをぶらぶらすること自体が楽しいようにまちがつくってある。金沢は天気が悪いとの話があったが、ヨーロッパは天気がよいかというと、そこまでよくない。雨が降るときは降るが、日本人ほど雨を気にしていない。日本でも手だてがないかというと、金沢では外してしまったアーケード街という日本人の知恵、天気を気にしない知恵があるから、大きな中心街で百貨店などを中心に、雨にぬれにくい歩行系の地域やシステムをつくり上げるのも一つの手かもしれない。それは地域によって少し知恵を働かさないといけない。郊外のショッピングセンターといえども車をおりてから歩いているし、車を置いて、結局、ショッピングモールの中を歩いているように、歩いて楽しいまちづくりをすることが重要だと思う。

◆熊野盛夫委員 非常に専門的な視点といろいろな情報量で勉強になった。特に、ストラスブール市での市民への説明会の回数が2,000回に上ったとのことで、想像を絶する回数だと思うが、この説明会は、最初から建設すると決めた上で行ったもので、その回数が2,000回で市民に大体納得してもらえたところで進めたのか、あるいはまちづくりをどうしていこうかと話を進めていく中でこうした話になって、結果としてできたものなのか。市民の合意とその説明会の方法などについてわかる範囲で教えてほしい。

◎波床正敏参考人 説明会の詳しい方法までは知らないが、LRTをストラスブール市に導入するきっかけになったのは、30年近く前になると思うが、今のLRTではないバス系の交通システムを入れようとしていたのが当時の交通政策の方針だった。これに異を唱えたトロットマンという人が選挙の争点にして、市長選を戦った。このときに、恐らく最初の市民への説明が行われ、路面電車系のシステムを大々的に導入して、環境に優しいまちづくりをしようと説明したと思う。また、これを争点にして市長に当選したので、実際に導入するときには市長選の争点として反対する人も多かったので、説明せざるを得なかったのだと思う。細かい説明の方法を知るには、それこそストラスブールに視察に行くという手がある。ちなみに、余りにも世界中から視察が多いので、視察専門の部署があるとの話を聞いたことがある。

◆熊野盛夫委員 プロセスとしては非常にわかりやすい。波床氏から見て、結果として、ストラスブール市の市民はLRTに対して満足しているように感じるか。

◎波床正敏参考人 満足しているようである。日本とは少し土地の所有制度が違うので地価という表現は適切でないかもしれないが、都心の地価、賃料が上がったとの話を聞いたことがある。なお、当初は実質2系統しかなかったが、今は7系統ぐらい走っている。鉄軌道の路面電車として敷設できるところが限られていることから、今は専用通路を確保したゴムタイヤ式のBRTを敷設する段階に入っている。

◆上田雅大副委員長 LRTの専門と聞いたのでLRTについて教えてほしい。
 ①整備するときに当然軌道を敷かなければいけないが、ただレールを敷けばよいわけではなく、NTTや電力の送電線などの埋設物は、LRTを整備するときにどういう対策をする必要があって、どういう工事が必要なのか、また、どういう工夫をしないといけないのか教えてほしい。
 ②専用の走行空間をつくるためには、片側1車線を当然潰すことになり、交通渋滞などの問題が発生してくると思うが、現状の金沢でそうした走行空間をつくって整備することについての所見を聞きたい。
 ③乗りかえについて、宇都宮市で整備を予定しているLRTは、既存の道路空間にLRTの軌道を敷くのではなく、新たに工業団地までルートを新設するので、乗りかえは基本的にはないと聞いた。しかし、金沢でLRTを整備することになれば、当然乗りかえが発生してくると思っていて、抵抗を軽減する工夫策について聞きたい。

◎波床正敏参考人 ①工事の話だが、日本国内で新規に路面軌道を整備した事例はほとんどなく、富山市の北口から奥田中学校前までの事例だけだと思う。金沢の場合は、かなり前に路面電車が走っていた実績があり、その当時、既に地下に存在していたものは路面電車が走ることを想定してつくっている可能性があるので、それは余り問題がないかもしれないが、路面電車を廃止した後に整備したものは、上に重いものが乗ることを考えてつくっていない可能性があるので、個別具体的に荷重がどれぐらいまで大丈夫か調べてみないとわからないと思う。ただ、説明したように路面電車はそんなに重くなくてバス程度なので、とても重いというわけではない。むしろ線路ができてしまうと、上から掘り返す工事ができなくなることが考慮すべき点になってくると思う。
 ②走行空間だが、片側1車線の往復2車線の場合に整備できないかというと、日本の国交省の道路の標準断面的にはできないと言われている。これは、補助金を出す基準で、中央に2線の路面電車軌道の横に1車線ずつの車線があって歩道が両側についている標準断面を国交省が示していて、それより狭いものは多分国交省が想定していないので、補助金をつける基準に達しないといって補助金を出さない可能性があると思う。ただ、世界的に見て、そのレベルの細さの道路は山ほどあるし、路面電車が走っている後ろに自動車がカルガモの子どものように連なっているところも多く、整備できるかできないかといえば整備できると言える。ただ、補助金が出るか出ないかと言われれば、多分今の国交省の認識では補助金を出すとは言わず、その部分は勝手にやりなさいと言うと思う。極端な話として、きょうの最後に見てもらった写真でわかるとおり、日本だと自動車の対面通行も難しいレベルのところでもやっている国はたくさんある。ちなみに、あの事例では、隣の街路にも反対向きの路面電車の線路があって、別々の街路に1線ずつ通している例は外国の古い街路ではよくある話である。できるかできないかという物理的なレベルでは、金沢にそれほどの障害はないが、国交省の制度の面からいうと、国交省はそこまで頭はやわらかくないと思う。
 ③乗りかえを頻繁にさせないためには、乗りかえ拠点自体を都心から離してしまうことになるが、もらった資料では新しい交通システムはどうも1系統しか想定してないようである。大抵のまちでは最低2系統で縦横ぐらいは入っているケースが多い。そういう縦横の拠点で都心から数キロメートル離れたところに乗りかえ拠点やパーク・アンド・ライドとフィーダーバス系統の乗りかえ拠点などを設定しているケースが多く、1系統だと今のような形の議論になってしまう。単刀直入に言うと、入れるのならもう少し大規模に入れたほうがよい。余り長くない系統しか想定してないように見えるが、入れるのだったら1系統で金沢港から都心を通って、少し外側まで行くようなものや、別の系統も含めてもう少し面的にカバーできるぐらいの計画はあってもよいという印象を持った。そうでないと、短い路線に無理やり乗りかえさせることになり、不便になってしまう可能性があると感じたが、まだポンチ絵レベルなので、具体的な議論はこれからしていってほしい。
(2)委員会視察について
 10月11日から13日まで行うこととしていた委員会視察について、愛媛県松山市、岡山県岡山市、兵庫県神戸市を視察することとし、視察事項は別紙のとおりとすることに決定した。
(3)委員会の開催日時
 委員会視察の次の委員会日時を平成29年11月1日午前10時からに決定した。
                                 以上

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