医療福祉問題研究会 第139回例会 (2021年3月27日)での報告です。
少し省略・追加している部分もあります。
「コロナ禍の相談活動から見えてきたことと金沢市の保健所について」
金沢市議会議員 広田みよ(保健師)
昨年3月頃から1年の間、毎日のようにコロナ禍で苦しむご相談の方がいらっしゃいました。その対応してきた中身や金沢市の支援制度の状況、そして、新型コロナウイルスへの直接の対応として金沢市の保健所の状況についてご報告させていただきます。
目次
1.相談支援について
●労働力調査
まずは、新型コロナウイルス感染症による影響は、リーマンショックのような一部の業種に限らず多くの業種が疲弊していると言う点で、労働者の状況について知っておくことが必要です。
・全国の状況(雇用者数)
ご存知かも知れませんが、「労働力調査」によれば、2020年1月から12月の平均でみると、雇用者数は、全国で前年比31万人減少しました。(グラフ①)男女別ではそれぞれ男性14万人、女性が17万人減少で、女性の方が減り幅が大きい状況です。
正規・非正規別では、正規が36万人増加、非正規は75万人減少となっています。
産業別では就業者で見てですが、「宿泊業、飲食サービス業」が前年比29万人、「製造業」が18万人減少しました。
また、平均ではなく月でみますと、2020年4月から9月の雇用者数は、コロナの影響が出る前の3月に比べて100万人以上も減っています。
リーマンショックの後にも雇用が減少しましたが、その減少幅は最高でも94万人。しかも、そこまでいくのに1年近くはかかりましたが、今回の減少は大幅かつ急激です。
・全国の状況(休業者数)
また、休業手当をもらっていれば、休業者として雇用者数にカウントされますが、前年比80万人増加しました。(グラフ②)
正規23万人増加、非正規では41万人増加、男性35万人増加、女性45万人増加しています。
・石川県の状況(雇用者数)
一方、石川県の労働力調査では、2020年平均では、雇用者数は前年比1万3200人減少、男女別では前年比男性6800人減少、女性は6400人減少。緊急事態宣言解除後の7-9月の減少幅が多くなっています(グラフ③)。非正規別では正規は100人増、非正規は1万1800人減少で、女性の非正規が7600人と大幅に減少しています(グラフ④-1、④-2)。
産業別では、農林、製造、生活関連サービス・娯楽という順番で減少がおおきいですが、男女別ですと、女性では、宿泊業・飲食サービス業、卸売業・小売業が2位となります。
・石川県の状況(休業者数)
また、休業者については、四半期別で緊急事態宣言期間を含む4-6月が前年比30400人増となるなど大幅に増えています(グラフ⑤)。
2020年平均では前年比8100人増加し、正規が2000人増加、非正規は3400人増加、産業別では宿泊業・飲食サービス業が29000人増と最多です。
男女別では、石川県からの聞き取りでは、正規職員休業者の68%が女性、非正規職員休業者では75%が女性です。
●支援制度の利用
こうした状況を背景に、コロナ特例で失業や収入減で利用できる緊急小口融資や総合支援資金、住居確保給付金、生活保護などの利用が進んでいます。
・緊急小口資金と総合支援資金
※総合支援資金も同様の傾向
コロナ特例の緊急小口や総合支援資金といった貸付制度は、3月25日からはじまっており、金沢市社会福祉協議会からのデータによると、2020年4月から2021年3月までの、新規相談受付は4467件、緊急小口資金3826件、総合支援資金3085件の利用であり、延長、再貸付が続いている状況です。また、2月に総合支援資金の再貸付が開始されたこともあり、この3月は18日時点でこの数字なので、急増している状況です(グラフ⑥)。また、リーマンショック時は、2年間で総合支援資金の2100件の利用であったことからすると、今回の生活困窮者の規模は大きいと言えます。
年代では、20歳代から60歳代の稼働年齢が9割を占め、40歳代が最多です(グラフ⑦-1)。
男女別では男性がおよそ68%です(グラフ⑦-2)。また、外国の方も一定数いらっしゃるとのことでした。
多くの方が利用されている一方で、給付ではなく貸付であり、利用に踏み切れない方もいらっしゃいます。やはり、給付を基本とすべきです。
・住居確保給付金
住居確保給付金については、2020年4月から2021年3月末までで、新規申請者数が782件で、その方の中で延長、再延長、再々延長、再支給となっています(グラフ⑧)。
年齢別では88.9%が稼働年齢(グラフ⑨)、就業状況は就労中がおよそ47.3%、失業中の方39.5%、自営も20.1%となり(グラフ⑩)、世帯状況は単身が70.9%をしめています(グラフ⑪)。
この制度は貸付ではなく給付なのでとてもよいのですが、緊急小口・総合支援資金とくらべ、預貯金の確認があったり、収入要件も厳しいなど多くの方が受けられるものとなっていません。
・生活保護
生活保護については2019年12月から2月の申請件数106件と2020年同期間を比較すると、24件の増加であり、今年の年末から徐々に増えています。
しかし、このコロナ禍でも厳しい扶養照会の実態があきらかとなり、改正問答集に申請者の意向を尊重する旨の規定が追加されるなど大きな変化が起こっています。
さらに、金沢市でも変化がありました。
金沢市議会の12月議会で市長に対し、厚労省が国会での追及を受けて、あらたに「生活保護の申請は国民の権利であり、ためらわずにご相談を」と明記したことをもとに、金沢市もそう広く周知すべきではないかと質したところ、市長は「生活保護は憲法25条に規定する理念に基づき、「国が生活に困窮するすべての国民に対し必要な保護を行い、健康で文化的な生活を営むための権利を保障するもの」と認識しています。市としても、生活に困窮される方が生活保護の利用・相談をためらわずしていただけるために、ホームページ等様々な機会を通して周知をしていきたいと考えています。」と答弁し、その後、市のホームページが以下のように変わりました。必要な方が、ためらわずに利用できる制度にすることが必要です。
●相談支援状況
こうした状況を受け、昨年の3月頃から、毎日のように相談活動を行いました。
日頃から、生活相談など受けているのですが、コロナ渦で大幅に増えました。
増えた要因としては、もちろんお困りの方が多いと言うのと、「コロナに関する支援制度がよくわからない」というお声を受けて、市議団独自で「支援制度一覧」を何度か作成し、数万単位で戸別配布や、ホームページやSNSなどに掲載してきたこともあげられます。(日本共産党金沢市議員団ニュース2020年4月号、7月号)
わたしが対応したものとして、大きく以下の2つです。
・自営業者からの相談、制度利用の支援がおよそ27件と最多(2020年3月から2021年3月)
対象としては、飲食店、住宅関係、仕出し屋、電気屋、建築関係、カラオケ喫茶、個人タクシー、バスガイドなどです。
5月からの「持続化給付金」や7月からの「家賃支援給付金」の相談や申請のお手伝いが主です。
これまでにない、オンラインのみという申請方法であったため、スマホも持っていない、メールアドレスってなに?アカウントってなに?という方々にはなす術もない状況で、お手伝いさせていただきました。しかし、オンラインという困難だけでなく、添付する資料をそろえたり、確定申告書に税務署の領収印がないとだめとか、本当に複雑で大変でした。コールセンターがあるのですが、100回かけてもつながらないし、かかってもみなさん臨時雇用の方々なので「わたしは判断できない」と繰り返す状況。やっと申請しても、入金されるのに時間がかかり、家賃支援などは長い人で半年かかりました。お金も借りながら、自転車操業の方々にとっては早急な支援が求められるのに真逆のものでした。
また、制度開始後に、給与所得の個人事業主でも申請できる制度となり、バスガイドさんたちの支援を多数させていただきました。彼女らは、いくつものバス会社と契約をし給与として支払われるけれど、事業主ということで、コロナが日本に到来してすぐ1月にはバス旅行が激減し収入が途絶えていました。シングルの方も多く、バスガイドのネットワークを使って制度を利用できないか必死で情報収集しておられました。
観光関連の業種については、こうした状況ではもろ刃の剣であることが示されましたが、自粛という中であらゆる業種が疲弊をすることも目の当たりにしました。
また、こうした制度では足りないというのがわかっていて、昨年のはじめのうちは闇金のようなところからご案内が多数来たとのことですが、長引いた今では闇金も貸してくれないという方もいらっしゃいました。
・次に、失業や減収による雇用者の相談については、およそ20件ほど(2020年3月から2021年3月)
おもに、コロナ渦での業績悪化による収入減少で生活できないというものです。緊急小口や総合支援資金、住居確保給付金につなぐとともに、このまま生活保護のほうがよいなという方は生活保護の申請をしました。
職種は、観光関連が多く、ホテルのレストラン、飲食店、タクシー運転手さんなどが多かったですし、公的な職場に非正規や派遣社員として勤めていた方もいました。新幹線の現場が止まったという作業員もいました。外国人の方のご相談もありました。
また、これまで家族で別世帯の治療中断中の精神疾患の方を支えてきたのだけれど、その家族の収入も減り限界がきて、精神疾患の方は生活保護、治療の開始、家族についても緊急小口と総合支援資金、住居確保給付金を申請という大がかりなものも今現在続いています。
雇用者については、雇用調整助成金や休業手当があるはずなのですが、コロナ始まって当初は企業側も混乱し利用できていなかったですし、利用していても生活できる給料が保障されない状況が多くありました。
・その他
その他には、昨年の4月に行われた特別定額給付金の申請方法がわからないということでお手伝いもさせていただきました。この機に及んで市は、マイナンバーを普及しようとしていましたが、こうした方々の支援が先だと思います。
また、夏頃にはコロナ疲れに加え、暑さや芸能人の方の自死報道もあったためか、精神的な不調を訴える相談事例が多くなりました。
●支援についてのまとめ
社協への相談者の年齢構成からもわかるように、稼働年齢を中心に幅広い年齢層の方がご相談においでました。中でも、女性が多く、就労形態は派遣やパートといった非正規の方がほとんどであり、ご高齢の方も年金では足りなくてアルバイトで補ってるという方々でした。
こうしたことから、災害などのときもそうですが、こうした感染症の蔓延においても、より社会的に弱い方々へ影響が及ぶことを肌身で感じました。
そして、支援制度については、貸付ではない制度や申請をもっと簡単にすることなど改善が必要です。生活保護については、誰でも受ける可能性があること、あなたのくらしを守るために受ける必要があるんだということを行政がもっと発信し、必要な方が受けやすい制度にしていく必要があります。
2.金沢市の保健所について
●保健所が半減
日本では1980年代、中曽根内閣によって「民営化」と「規制緩和」を柱とする新自由主義が本格的に導入され、国鉄・電電公社などの民営化が果たされたのち、コスト論の見地から公衆衛生分野の要である保健所、医療分野では公立・公的病院の統合・廃止路線が進められ「平成の大合併」がこれに拍車をかけた中で今回の事態を迎えました。
保健所については、1994年の保健所法の改悪により、設置基準が人口10万人に1か所から2次医療圏に1つとされ、全国では1992年に852か所あった保健所が2019年には472か所へ(グラフ⑫)、石川県全体では1996年まで11あった保健所が1997年には半分以下の5か所にされてしまいました。
その中で本市は、当時新規結核患者が130名という状況であるにも関わらず、3か所あった保健所がひとつにされてしまい、保健所保健師についても数名という配置が続いてきました。
こうした保健所統廃合など公衆衛生政策のつけが今回のコロナ禍で全国的にも、保健所の崩壊寸前を招いています。
●本市保健所のコロナ禍の状況
本市では2020年4月時点で、駅西保健所地域保健課の感染症対策係である保健師7名、看護師1名が本来の担当でしたが、人口46万、20万世帯にこの体制で今回のコロナ対応が可能なはずはなく、会計年度任用職員を7名採用し、4月のピーク時には本庁や福祉健康センターから18名の保健師、17名の事務や消防OBが応援に入りました。
しかし、朝から晩まで電話がなりっぱなし、相談件数は多い時で1日320件を超え、本市では第1波の感染者はおよそ130名、その方々のPCRの検査関係、陽性者の行動歴や接触者調査、濃厚接触者については、2週間毎日電話をして確認する、クラスターが発生すれば対応というすさまじい状況でした。(グラフ⑬)それでも、通常業務であるエイズやクラミジア、肝炎の相談や検査は門戸を閉ざすことはありませんでしたが、件数など縮小せざるを得ませんでしたし、4月の残業は、過労死ラインの100時間/月以上が医師や保健師で10名、もっとも多い保健師では257時間/月という結果でした。
●保健師人員体制
そもそも人員体制については、本市は、2019年度5月時点での保健師数は57名。中核市の人口当たりでは最下位でした。質問なども重ねた結果、2020年8月から定数を3名増やし、さらに新年度1名の増員予定となりました。
しかし、保健所についての財政措置は地方交付金も出ていますが、保健所にどれほどどう使うかや保健師の配置については地方任せになっている実態です。本市では、統廃合後の2000年と現在を比較すると、保健所費で2600万円、人件費では1125万円もこれまで減らされてきました。国は新年度予算で交付金を増やすとしましたが、保健所の機能強化や保健師の増員については、国からのさらなる財政支援とその裏付けとなる基準が必要です。
今回、コロナ禍で改めて保健師について改めて調べました。
そこで強く思ったのは、感染症対応の体制が縮小されていることはもちろんですが、石川県で保健所が11あった頃に比べ、保健師の役割が大きく変わったことです。机上の業務が増えなかなか地域に出られないという現場のお声もあります。住民全体に責任がもてる役割・体制となるよう引き続き求めていきたいと思います。
3.まとめ
コロナ禍の1年、毎日報告される感染者数に一喜一憂しながら、国や行政がどう対応するか、市民の生活営業が守られているかを見比べ、相談対応しながら、その間に立つ議員として市民や現場の声を伝え、政治や行政に改善を求めていくことに必死の毎日でした。
一方でこのコロナ禍の問題は、医療や保健衛生の縮小、労働改悪、不十分な社会保障、ジェンダー格差、観光に特化したまちづくり、環境破壊などこれまでの問題が露呈したのであって、これまでの結果だと思わざるを得ません。
今後、ひとつひとつの課題解決はもちろんのこと、その根底にある社会の仕組みそのものを変えることをみなさんと模索をする必要があると感じています。