お盆で、ふるさとに里帰りする方もいらっしゃるかと思いますので、少しふるさとに関するご報告をば。
みなさんは「ふるさと納税」をご存じでしょうか。
ご利用されている方もいらっしゃるかもしれません。ただ、そんな方々とお話すると、自分の住んでいる自治体ではなく別の自治体に納税すると誤解していたり、住んでいる自治体の税収が減ることをご存じなかったりすることも多いので少しご報告させていただきます。
ふるさと納税とは
まず、「ふるさと納税」は「納税」ではなく「寄付」です。金沢市のHPでもこのように扱っています。
都道府県、市区町村への「寄附」です。
一般的に自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されます。そして、このふるさと納税では原則として自己負担額の2,000円を除いた全額が控除の対象となります。※総務省サイトから引用
2008年に創設された「ふるさと納税」は、2015年に寄付上限額の引き上げや手続簡素化が行われたことで、寄付額が14年度の388億円から20年度の6,725億円に急増、2022年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新しています。
問題点
郷里への応援、被災地支援など、それ自体としては積極的な意味を持っています。しかし、問題があります。
自治体の税収が減る
まず、自治体にとって住民税というのは大事な収入です。ふるさと納税によって住民が「寄付」を他自治体に行うと、その住民は「控除」が増え、本来支払う住民税が減る。つまり自治体が本来予定していた収入が減るという弊害があります。
なので、「寄付」を獲得するため競争に参加せざるを得ないのです。ただ、人気のある「返礼品」を用意できる自治体に寄付が集中していますし、勝ち組があれば負け組がある競争なので、寄付額が控除額を上回るというのはなかなか難しいのが実態です。
そして、地方自治体の本来の役割は「住民の福祉向上」であり、このようなことに労力や経費をかけるのは正常な姿でしょうか。納税制度は人気商売ではありません。税制度そのものを歪めているのではないでしょうか。
金沢市の税収
まず、金沢市の税収はどうなっているのでしょうか。金沢市にとって住民税というのは、「市民税」にあたります。
歳入(収入)のうち、市が集めている税金が「市税」であり、そのうちの「市民税」を示した図が以下です。 ※金沢市のサイトから引用
市税内訳
ご覧のとおり、市民税は365億5,679万円の収入であり、市税の内訳の中でも最も大きい額ですし、歳入でみても最も大きい収入ということになります。
金沢市は14億円が流出
では、金沢市のふるさと納税の状況です。
2022年度、金沢市に寄せられたふるさと納税(寄付)は8億8781万円である一方、金沢市以外にふるさと納税をした方の市民税額控除は14億1700万円でした。
つまり、単純な差し引きでは「赤字」ということになります。
減収は国民が負担している
しかし、この減収分については国から交付税措置があり、75%ですが穴埋めされることになっています。
よく、「金沢市より大変な自治体を支援したい」というお声や、「金沢市はに税金納めても・・」というお声も聞いたことがあります。しかし、どちらにせよ、寄付より控除が上回ったとしても、国から、つまり国税から補填があるので、巡りめぐって私たち国民の負担で調整をしているということになります。
本当にお金が流れているのはどこか
たしかに、人口が減る一方の多くの自治体では生き残りをかけて必死だったり、被災地なども予算が必要だと思います。ただ、そうした自治体には国がきちんと予算を追加すべきであり、自治体の競争合戦にするのはおかしいと思うのです。上で書いたように、結局は国民が負担するのですから、必要なところに最初から予算を配分するべきです。
そして、この競争に参加するには、もはや自治体の体制や機能だけでは足りません。みなさんもご存じの通り、民間のふるさと納税のサイトが何種類もできています。もはやネット通販のようです。そこで、金沢市の場合は外部へ業務委託が行われています。「返礼品」選びや広報業務、返礼品の発送などを委託しているのです。ルールとしては、返礼品は寄付額の30%以内、事務費も寄付額の50%を超えてはならないということになっていますが、税を適正に集める業務に関連して、このような民間事業者へあらたな業務が発生しているのです。そして、下の質疑で見ていただきますが、寄付額に対して、その半分ほどはこうした経費についやされるのです。
そして、言うまでもなく、高所得者であればあるほど控除が増えお得だと言われています。
これらの点を昨年の総務常任委員会で質疑しましたので、ご参考にしてください。
問題点の質疑
令和 4年 8月 総務常任委員会 08月22日
◆広田美代委員
ふるさと納税について、寄附金額は7億6,000万円とのことだが、本市に本来入るはずだった寄附金の控除額は幾らになったのか。
◎本庄総務課長
寄附金の控除額は11億6,937万3,000円となっている。
◆広田美代委員
これが本来、市民税として本市に入るはずだったが、よそに寄附したために入らなくなったお金である。7億6,000万円と比較すると、こちらの方が多いことになるが、ふるさと納税の矛盾する仕組みとして、地方交付税で補填するという仕組みがある。金額は正確に分からないかもしれないが、11億6,900万円が控除されたらどれぐらい地方交付税で補填されるのか。併せて、寄附金も7億6,000万円が純利益ではなく、手数料や商品代が入っていると思うので、その分を差し引いて純粋な利益が幾らになるのか教えてほしい。
◎本庄総務課長
サイト運営などの事務費、返礼品の調達費用、返礼品の発送に係る手数料、広報、決済代行者に対する決済手数料、そのほか事務負担といったもろもろの経費は、おおむね寄附金額の50%弱の3億8,159万6,000円となっている。
◎津田財政課長
地方交付税では、寄附等の控除により減収した市税収入に対する75%が交付税で措置される。仮に寄附等の控除で10億円が減収した場合、7億5,000万円が普通交付税として措置される計算となる。
◆広田美代委員
75%が補填されるということで、簡単に計算すると11億7,000万円の控除額に0.75を掛けると8.7億円となる。寄附額が7.6億円で、そのうち半分の3.8億円が持っていかれるわけである。8.7億円と3.8億円を足すのは少しおかしいが、足しても引かれる11億円ととんとんで、何のためにふるさと納税をやっているのかということになる。地元の商品が売れることによる経済活性化もあるかもしれないが、ふるさと納税を全くやっていない、控除しても何の利益もない低所得の人からも国税という形で、また地方にお金を出さなければならないなんて、こんな矛盾のある制度はないといつも思っている。地元にはそんなに不利益がないまま寄付ができると勘違いしている人が結構いるが、あなたがよそに寄附することで地元の住民税は減るということをちゃんと周知していかないと、本来の地方財政の在り方が崩れてしまうので、その辺だけでもしっかり周知してもらいたい。また、さとふるに9月から加盟するとのことだが、経費は増えるのか。本来、経費は最小限にしてほしいが、どうか。
◎本庄総務課長
経費については総務省から基準が示されており、返礼品については寄附額の30%以内、事務費を加えても寄附額の50%を超えてはならないというルールがあるので、寄附額が増えれば増えるほど経費は膨らむ。ただ、寄附額に相当する事務費や返礼品の率は増えることにはならない。
◆広田美代委員
結局のところ、寄附額と経費の関係もいたちごっこというか、業者もそれを分かっていて、寄附が増えても経費の割合は増えないと宣伝してくるのだろうが、こうした大企業の仲介手数料や事務手数料ばかりがどんどん膨らむ現状は本当にゆゆしき問題だと思っている。私はふるさと納税自体に反対だが、ぜひ今ほどの議論は住民にしっかり知らせてほしいと思う。